PTSDについて(心的外傷後ストレス障害)

PTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)は、強烈なショック体験、強い精神的ストレスが、こころのダメージとなって、時間がたってからも、その経験に対して強い恐怖を感じるものです。震災などの自然災害、火事、事故、暴力や犯罪被害などが原因になるといわれています。 被害を受けた後、突然、怖い体験を思い出す、不安や緊張が続く、めまいや頭痛がある、眠れないといった症状が出てくることは誰にもありますが、それが何カ月も続くときは、PTSDの可能性があります。

(1)症状

以下の3つの症状が、PTSDと診断するための基本的症状です。こうした症状は、つらく怖い経験の直後であればほとんどの人に表れるものです。なので、事件や事故から1ヶ月くらいの間は様子をみて、自然の回復を待ってみます。これらの症状が、事件や事故の後、1ヶ月以上経っても持続している場合にはPTSDを強く疑います。

①追体験(フラッシュバック)

自分の気持ちのなかで心的外傷体験の整理がつかず、自分の意志に反して頭のなかに浮かび上がり反復されることを指し、ただ単に体験に伴う嫌な感情が思い出されることと区別されねばなりません。たとえば誰かと喧嘩して嫌な感情が思い出されるということではなく、死に直面した恐怖体験に伴う感情が浮かび上がることが必要です。

②回避

心的外傷体験に関連した場面、場所をただ単に避けるということではなく、心的外傷に起因した恐怖感が抜けずに無意識のうちに回避行動をとってしまう場合をいいます。例えば、通勤途上で駅ホームに立っていたところ、何者かに後ろから羽交い締めにされて線路に転落、入線してきた電車に接触して頭部外傷を負ったとしましょう。その後から、電車が到着するまでホームで待つことができず、階段のところで電車を待ち、電車がホームに着いたのを確認して電車に乗るようになった場合などです。

③過覚醒

入眠困難、易刺激性、集中困難などがあたります。凄まじい心的外傷体験にさらされたために感情が高ぶり、つらい記憶がよみがえっていない時でも緊張が続き、常にイライラしている、ささいなことで驚きやすい、警戒心が行き過ぎなほど強くなる、ぐっすり眠れない、などの過敏な状態が続くようになります。

(2)治療法

PTSDの治療においていちばん大切なことは、心理的に保護をして、自然の回復をうながすことです。保護というのは、安全、安心、安眠の確保です。とくに被害を受けた後の数カ月間は、かなりの自然回復が見込まれますし、またいきなり精神科を受診する人は少ないので、家族や、時には内科や外科、産婦人科の医師と相談のうえ、保護的に回復を見守ることも有効です。しかし症状が重い場合や、徐々に悪化する場合、数カ月を経ても自然に回復しない場合には、専門的な治療の対象となります。治療には、PTSDの特定の症状を軽くする為の対症療法と、PTSDという疾患そのものの治療法があります。

①薬物治療

おもに抗うつ薬(SSRI)が使われます。不眠に対してはベンゾジアゼピン系よりも抗精神病薬セロクエルなどが使われます。

②非薬物療法

薬と並んで、あるいはそれ以上に有効とされているのが、トラウマに焦点を当てた持続エクスポージャー療法、自律訓練法、グループ療法、眼球運動をしながらトラウマを想起させる眼球運動脱感作療法(Eye-Movement Desensitization and Reprocessing:EMDR)と呼ばれる治療もあります。

③当院での治療の取り組み

当院では、単純なPTSDや恐怖体験によるトラウマに対しては、薬物療法と合わせて、眼球運動脱感作療法(Eye-Movement Desensitization and Reprocessing:EMDR)、自律訓練法なども取り入れて行っています。

EMDRとは・・・

EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing:眼球運動による脱感作*と再処理法)は、PTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)に対して、統計的に有効性が認められている心理療法です。他の精神科疾患や精神衛生の問題、身体的症状の治療に対しても、学術雑誌などに成功例がしっかり記述されています。 (*脱感作:アレルギーなど身体や心の異常反応を軽減させるため少しずつ慣らしていく手法) PTSDなど精神的苦痛が後を引いてなかなか治らないのは ①苦痛でいやな人生経験をする ②不適切な視覚イメージと結びつけたりすることで、マイナスイメージのまま定着する ③あるいは心の中で不適切なグループ化や、不完全に処理されたまま定着する ④これにより、苦痛経験を適切に理解し処理しようとする能力に障害を受ける。 というステップによると考えられています。 これに対して、EMDRの治療は、健常な情報処理、理解の再開を促します。この治療アプローチでは、「過去の経験」、「現在の引き金(思い出すきっかけ)」、「未来の潜在的挑戦」をターゲットにし、苦痛な過去の記憶からストレスを減じたり、除いたりし、現在の症状を緩和し、自己の見方を改善し、身体的苦痛から解放され、現在と未来の予測される引き金が解決するのです。1989年にアメリカでフランシーン・シャピロという臨床心理学者が発表して以来、今日までに全世界で40,000人以上の精神科医、臨床心理士などがこの方法のトレーニングを受け、2,000,000人以上の人が治療を受けています。 日本でも1,500名以上の専門家がトレーニングを終えました(2012年5月時点)。EMDRにおいて、眼球運動や他の両側性の刺激は、脳を直接的に刺激し、脳が本来もっている情報処理のプロセスを活性化できると分かっています。手続き的には簡単に見えても、しっかりとEMDRの研修を積んだ精神保健の専門家のみが実施すべきで、起こりうるさまざまな悪影響にしっかり備えることが重要です。 例えば、EMDR手続きの利用によって、思いもよらぬ記憶が表面化し、苦痛を伴う事や、予期しなかった、激しい感情や身体感覚が現れることがあります。EMDR手続きの後も、出来事あるいは題材の処理は続き、他の夢、記憶、フラッシュバック、感情等が出てくることもあります。しかし、いずれも、適切に対応すれば問題ありません。 EMDRは患者さんの脳の本来の力を引き出す治療法であって、マインドコントロールのように洗脳されるとか、臨床家に操られるというような心配は全くありません。5年、10年かけて心のどこかに落ち着いていくプロセスを短時間で進めることができます。また、止めたいときにはいつの時点でも止めることができます。 これまでのPTSDの治療法であった暴露療法では、起こったできごとや家庭環境、成育歴などすべてをこと細かく語ることが必要とされることが多かったのに比べて、EMDRは大変ストレスの少ない治療法としても認められています